ゲイリー

「SIREN」の音楽についての対談とのことで、まずこのゲームの音楽がどういう分担で制作されたかからはじめましょうか?メインテーマで一番耳にする事の多い童歌風のオラショなどムービー部分のメロディーが割とはっきりした部分を担当しているのが冷水さんで、僕は主にフィールド画面で延々鳴っている、ゴワ〜ンという音響系の音楽を作っています。

 
冷水 とはいえ、棚田のフィールドBGは私がやってたりするので、完全に分業というわけではないんだけれど。  
ゲイリー

フィールドBGのうち、2曲では松前公高さんにも参加して貰ってますが、この辺りは僕の判断です。次々と襲いかかってくる屍人との激しい攻防を重鈍でメタリックなサウンドで演出したくてお願いしたんですけど。
あと、ムービー部分で聴かれるいわゆるホラー劇伴然とした楽曲は僕ですね。
「SIREN」の音楽で特徴的な事は参加した3人が全員ホラー映画の劇伴をやっている事なんですよね。PS2スペックになって音楽的な自由度が増した事で、より映画的な演出が可能になってきた事がこういう新しい可能性を拓いてると思うんですが、実際ホラー映画の劇伴をつける時と感覚的には大分違ってますよね?その辺はどう思いますか?

 
冷水 映画の場合、ホラーと言ってもその中にホッとする場面があったり、ラブ的な展開が少し入ったり、コワイ以外の要素がはいることが多いのですが、今回は、コワイ-暗い-気持ち悪い-狂気、が全てだったので特殊な体験でした。フィールドBGは楽音を殆ど使わずに、ひたすらどんどん生理的に気味悪くしていくという作業でしたので、音を作っているだけでも閉塞感がありましたね。  
ゲイリー 確かに今年は気候もよくないし、そんな中でスタジオにこもりっきりで怖い曲を作り続けるのはかなり精神に変調を来しましたよね(笑)  
冷水 私が担当した部分のムービーはかなり映画音楽に近い作り方ですが、制作スタッフから頂いたムービーファイルを始めて見たとき真っ暗でナニも見えなかったので、"なにもうつってないのですが・・・"と電話しそうになりました。(笑)
ずっと見ているとそのうちに目が慣れて、なにか動いていることがわかりました。

カリスマ/黒沢清監督作
ゲイリー

「SIREN」の音楽性について話しましょうか。
フィールドBGについて一言で言うならエレクトロニカと民族音楽の無気味な部分が融合しなおかつ日本の山奥の閑村を思わせる湿った「和」の情緒を感じさせる楽曲…という事につきると思います。
大体5分くらいでループして延々ゲーム中聴かなければならないから、僕は3コーラスの曲を作るようなつもりで3回くらい仕掛けが出入りする構成になるように曲を作ったんです。ベースではゴワ〜ンというノイズのようなものの上で時々ダカダカ〜とリズムを感じさせるノイズが入っては消える…というような感じ。
最初はもっとマウスオンマーズとかのエレクトロニカによった方向性を考えていたんだけど、実際やってみるとゲーム中で激しく戦っているところでまったりしすぎて緊迫感が欠けてしまったので、多少動きのある音楽的要素を加えるなど映画の劇伴におけるノイズ的な楽曲のノウハウによせていったという所でしょうか?逆回転、ピッチチェンジと、とにかくソフトサンプラー使い倒しでいや〜な音作りにのめりこんでいた......という状況でしたね。
自分の中では黒沢清作品の「CURE(キュア)」「カリスマ」から清水崇監督「ビデオ版呪怨二作」などで培ったこの手の方法論の集大成的な感じです。しかしなんといっても冷水さん作のメインテーマのオラショ、あれ本当に恐くて嫌ですね。

CURE(キュア)/黒沢清監督作

冷水

たとえば、橙色をしたボウーッ霞んだ月が何もない空に、とつぜんポカーっと浮かんでいるような不気味さ、禍々しさを出したかった。メロディー自体はわざと明るめなんだけれど、中がガランドウで不安感を誘うような単純さ。日本の土俗の要素はあるんだけれど、でもどの国のものでもない。
歌詞も既存の宗教などに抵触しないように気を付けて作られています。
これを日本のビョークと称される柚楽弥衣さんに、ちょっとブルガリアン風の発声で唄ってもらったら、完璧にはまりました。歌詞が難しいのでその練習は必要でしたが、実際の録りはテイクワンでokでした。お見事ってかんじ。
そしてその下のうなり声が倍音ズ。ホーメイという唱法。
倍音ズにはムービーの他の部分でも唸ってもらっています。
ひとりで二つの音を出す発声でこのオラショメロディーをやっているのもあります。
弥衣さんと倍音ズの組み合わせは「SIREN」ならではですね 。

降霊/黒沢清監督作

ゲイリー

僕も柚楽弥衣さんには映画の仕事でなんどもスキャットをお願いしてるのですが、本当に表現の幅が広くて素晴らしい。こういうエスニックなテイストが彼女の本分なんだろうと思うんですが、実はいわゆるダバダバ系のスキャットなんかも物凄く雰囲気いいんですよね。伊集加代さんやモリコーネなどで聴かれるエッダ・デロルソみたいな暖かみのあるスキャットがまたいいんです。黒沢清監督の「ニンゲン合格」のスキャットの曲をやってる人と「SIREN」のオラショの人が同一人物なんて笑っちゃいますけどね(笑)。
ところで冷水さんはそもそもホラー映画って好きなんですか?


呪怨2<ビデオ版>/清水崇監督作
冷水 古いけど「サスペリア」とか「キャリー」とか女ノコっぽいのは好き。あとはジョンカーペンターのものとか。音楽で好きなのは、やっぱりクラシック中のクラシック、バーナードハーマンの「サイコ」です。  
ゲイリー なるほどね。「サスペリア2」の冒頭の女の子の童歌みたいなのと「SIREN」のテーマはどこか通じるところがあるので興味深いですね。僕はトビー・フーパーの「悪魔の沼」だなあ。とにかくトビー・フーパー自ら奏でる電子音が変な音色満載、いや〜な感じで最高なんですよ。多分今回の「SIREN」の音楽にも色濃く影を落としてると思うんですが。ホラーは僕自身かなりの思い入れを持って望んでいるジャンルなんで今後も機会があればどんどん挑戦したいみたいですね。  

 


 

 

SIREN 公式サイト--http://www.playstation.jp/scej/title/siren/

 

 
Gary Ashiya   Hitomi Shimizu